文豪語録

明治から昭和くらいまでの文豪たちの名言や名文、格言、迷言、珍言を載せていきます。

たとえばアンゴという怖るべき殺人鬼が現れて、山ツツジで人を殺したら - 坂口安吾『明日は天気になれ』

池の金魚との戦い

 ……そこで私は医者をおどかしてやった。


この町に殺人鬼が現れて――たとえばアンゴという怖るべき殺人鬼が現れて、山ツツジで人を殺したら、この町の医者には死因が分らないな。よーし、次から次へと殺してやるぞオ
「おどかすのは止しなさいよ。アナタは目ツキが変だから、心配するよ」


 ところが人生はよくできてるもので、私が山ツツジの毒の所在について転々ハンモンしているところへ図書館長が文化会の用件で現れた。
 この老いたる館長は非常な篤学者ときいていたから、私はきいた。

 

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赤城山ツツジは山ツツジだそうですね」
「左様です。赤城のほかに富士山なぞにもこの種のツツジがあります」
「山ツツジには毒があるそうですが」
「ございます。むかし赤城には放牧しておったのですが、牛馬も知っておると見えまして、ツツジはよけて食べ残しましたので、あのように面白い形にツツジの群が残ったのかも知れません」
「どこに毒があるのですか」
「花にも、葉にもございます。毒と申しましても、腹痛を起す程度で、よほど多量に食べなければ生命に別条ないと思いますが」


 これによって、殺人鬼の件もオジャンになった。実はその毒性次第では「ツツジ殺人事件」という探偵小説を書いて一モウケしてやろうともくろんでいたのである。……


坂口安吾『明日は天気になれ』より)

 

坂口安吾のプロフィール

坂口 安吾(さかぐち あんご、1906年(明治39年)10月20日 - 1955年(昭和30年)2月17日)は、日本の小説家、評論家、随筆家。本名は坂口 炳五(さかぐち へいご)。昭和の戦前・戦後にかけて活躍した近現代日本文学を代表する作家の一人である。新潟県新潟市出身。東洋大学印度哲学倫理学科卒業。アテネ・フランセでフランス語習得。純文学のみならず、歴史小説推理小説も執筆し、文芸や時代風俗から古代歴史まで広範に材を採る随筆など、多彩な活動をした。

坂口安吾 - Wikipedia

 

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