文豪語録

明治から昭和くらいまでの文豪たちの名言や名文、格言、迷言、珍言を載せていきます。

徳川家康は温厚な古狸のように考えられているが、彼の側近の記録によると、自分に不利なことが起ると、たちまち顔色が蒼ざめ、ボリボリ爪をかむ癖があった - 坂口安吾『明日は天気になれ』

エライ狂人の話(4) ……徳川家康は温厚な古狸のように考えられているが、彼の側近の記録によると、自分に不利なことが起ると、たちまち顔色が蒼ざめ、ボリボリ爪をかむ癖があったという。そして、さてははかられたか、もうダメか、なぞと独り言をつぶやき、…

信長がひところ切支丹の最大の保護者であったことは人に知られているが、晩年に於て切支丹の敵となり、外国宣教師の呪いをうけていることは案外知られていない - 坂口安吾『明日は天気になれ』

エライ狂人の話(3) 信長がひところ切支丹(キリシタン)の最大の保護者であったことは人に知られているが、晩年に於て切支丹の敵となり、外国宣教師の呪いをうけていることは案外知られていない。 なにぶん信長の伝記作者の目から見ると、切支丹の問題は…

日本の独裁者で誰がどのような狂気を行っているかというと、まず豊臣秀吉の朝鮮征伐をあげることができる - 坂口安吾『明日は天気になれ』

エライ狂人の話(2) 日本の独裁者で誰がどのような狂気を行っているかというと、まず豊臣秀吉の朝鮮征伐をあげることができる。 秀吉は愛児鶴松を失ったときに発狂状態になった。常態を逸してフラフラと有馬温泉へ保養に行き、鬱々たる十数日の物思いのア…

ヒットラーはその破壊面から狂人のように描かれたり考えられたりされ易いけどれも、その建設面から見れば天才と称せざるを得ない - 坂口安吾『明日は天気になれ』

エライ狂人の話(1) 常人と狂人の差は程度の問題だといわれているが、職業上個人の思考や行為の振幅が常態以上に大きいことを必要とする立場の人たちは、職業上の立場と個人の立場が混線して、個人の狂気が判然しない場合などがある。 たとえばヒットラー…

昔の剣法は「ヤッ、トォーッ!」というカケ声を使ったものらしい - 坂口安吾『明日は天気になれ』

真庭念流 ……真庭念流の道場には豪傑然とした、また武芸者然とした人が一人もいない。二十歳から八十いくつまでの高弟全部が集まっていたが、七十をすぎている人も数名はおる。いずれもただの里の人々である。 今まで握っていたクワを捨て、手足と顔を洗って…

東京に今なおクサリ鎌の術を伝える人がいるそうだから型を見せていただこうと、一昨年訪れた - 坂口安吾『明日は天気になれ』

神伝夢想流 東京に今なおクサリ鎌の術を伝える人がいるそうだから型を見せていただこうと、一昨年訪れたことがある。ところが主人は戦災でクサリ鎌を失った由で、「私はクサリ鎌をやるにはやりますが、元来は杖(じょう)を学んだものです」「杖と仰有(おっ…

多くの人々が空襲で家財を失い、食料の欠配、よろこんで犬猫を食らい、豚のエサや雑草を食らう有様 - 坂口安吾『明日は天気になれ』

豪勢な貧乏 私は長らく昔なら語り草になるような貧乏ぐらしをやってきた。しかしそれも「昔なら」で今では全く珍しくない。戦争中から戦後にかけては、多くの人々が空襲で家財を失い、食糧の欠配、よろこんで犬猫をくらい、豚のエサや雑草をくろう有様で、天…

高原療養所でコンニャクストライキという騒動があった - 坂口安吾『明日は天気になれ』

コンニャク論 先日友人のところへ群馬県下仁田というところから女中がきた。そのとき女中が就職条件として、「どうかコンニャクだけは食べさせないで下さい」 とたのんだそうである。 下仁田は日本一のコンニャクの名産地だそうで、コンニャクは下仁田と相場…

純粋の秋田県というものは実は近年完成したばかりの雑種なのである - 坂口安吾『明日は天気になれ』

日本犬の話 私は一昨年秋田犬を訪ねて秋田へいった。秋田市には秋田犬が見当らず、青森県境にちかい山間の大館市で、秋田犬にお目にかかった。 この大館市が秋田犬の本場であるが、そこに秋田犬保存会長の平泉さんという犬好きの人がいて、秋田犬の内幕を語…

年賀状はムダだ - 坂口安吾『明日は天気になれ』

年賀状 私の住む町の一人の郵便集配人が年賀状は人々が待っているものだからと高熱をおして配達にでて倒れた。愛すべき実在のサンタクロース氏である。 年賀状はムダだ、虚礼廃止だなどと昔から云われていることであるが、人生にムダや遊びが許されなかった…

アンコウ鍋は抜群だ。だから私もよく食った。私の名がアンゴだから - 坂口安吾『明日は天気になれ』

アンゴウのドブ煮 冬になると東京の居酒屋では「アンコウ鍋」が江戸前の肴として珍重されるが、だいたい居酒屋で食べさせる江戸前の肴は、湯どうふ、サシミ、スダコ等というものだから、その中ではたしかにアンコウ鍋は抜群だ。だから私もよく食った。私の名…

チョンマゲをつけた六尺の大男が買出に行くと - 坂口安吾『明日は天気になれ』

乱世の抜け穴 終戦後の食糧難のころ、私はこの相撲とりのおかげでうまい物が食えた。なぜなら彼は驚くべき特権階級だったからである。 戦争中に廃業したのだが、奴め終戦後も五年間ぐらいチョンマゲを落さなかった。このチョンマゲが大変な特権なのである。 …

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