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文豪語録

明治から昭和くらいまでの文豪たちの名言や名文、格言、迷言、珍言を載せていきます。

昔の剣法は「ヤッ、トォーッ!」というカケ声を使ったものらしい - 坂口安吾『明日は天気になれ』

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真庭念流

 ……真庭念流の道場には豪傑然とした、また武芸者然とした人が一人もいない。二十歳から八十いくつまでの高弟全部が集まっていたが、七十をすぎている人も数名はおる。いずれもただの里の人々である。
 今まで握っていたクワを捨て、手足と顔を洗って、折目のついた縞の着物に着代え、木綿のゴツゴツした袴をはいて現われてきた人たちで、まれに一、二名紋服を着ていた老人もいたが、多くの老人は生涯紋服を着たことのなかった人であろう。最高の晴れ着といえば、折目のついた縞の着物で、いまそれを着て、袴のモモ立ちをとって、木剣を握っているのである。
 平々凡々たる農民たち、むしろよその農民よりも人相のやわらかな老いたる農夫たちが、ひとたび木剣を握って「無構え」に構えた瞬間、唐突に人相が一変してしまう。
 念流に限らず、昔の剣法は「ヤッ、トォーッ!」というカケ声を使ったものらしい。江戸のころは剣術をヤットオといい、剣士をヤットオ使いといったものだ。そのヤットオというカケ声を私は生まれてはじめてここで聞いた。……

 

坂口安吾『明日は天気になれ』より)

 

坂口安吾のプロフィール

坂口 安吾(さかぐち あんご、1906年(明治39年)10月20日 - 1955年(昭和30年)2月17日)は、日本の小説家、評論家、随筆家。本名は坂口 炳五(さかぐち へいご)。昭和の戦前・戦後にかけて活躍した近現代日本文学を代表する作家の一人である。新潟県新潟市出身。東洋大学印度哲学倫理学科卒業。アテネ・フランセでフランス語習得。純文学のみならず、歴史小説推理小説も執筆し、文芸や時代風俗から古代歴史まで広範に材を採る随筆など、多彩な活動をした。

坂口安吾 - Wikipedia

 

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