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文豪語録

明治から昭和くらいまでの文豪たちの名言や名文、格言、迷言、珍言を載せていきます。

銃後に原バクがチャンと落ッこッてる今日の戦争において、兵隊と銃後に変りはない - 坂口安吾『明日は天気になれ』

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楽天国の風俗

 ……新国軍の誕生だの徴兵是非などが新聞雑誌に論議されてワイワイ世論をまき起しているけれども、銃後に原バクがチャンと落ッこッてる今日の戦争において、兵隊と銃後に変りはない。むしろ日本のようにせまい国土においては、もうどこにいても水バクの被害からぬけだすことができない有様で、こうなっては疎開もききゃしない。人間が一まとめに燃えるのを待つようなものだ。
「どうだい。そろそろ戦争がはじまるてえが、内地にいちゃアどこも危くって仕様がねえな。いッそ軍隊へ疎開しようじゃないか」
「そいつァうまい考えだ。お前は陸軍に疎開するか」
「オレは海軍だ」
 こういう気転のきいた兵隊がどんどん戦線へかけつける。
「なア、オイ。兵隊になって、よかったなア。内地にマゴマゴしてる奴の気が知れねえな。トーチカはあるし、コンクリート製の地下防空壕はあるし、ホンモノの防毒面までムリにくれやがるし、兵隊てえものは死なねえようにできてるもんだなア。それで、お前、メシはタダだ。欠配もねえや。これで何だな、酒と女の配給がもうちょっと多いと申分ないのだがなア」
「そこが戦争でえ。我慢しろい」
 東京と大阪と名古屋と北九州の四区域に水素バクダンが落ちただけで日本人はあらかた消えてなくなるらしい。国土という絶対面でこういう抵抗力の絶無な国民がこれからの戦争を考えたってムリである。
「どうでえ、戦争と手を切りたいてえ話なんだがなア。雷除ケの神サマへ願をかけてみるか」
「よせやい、文明の人間が。落ちてくるものは、仕方がねえや」
 原子バクダンというものが人間の頭上に落ちたのは後にも先にもこの国だけだが、この楽天国の人間は悠々虚心タンカイ(坦懐)である。

 

坂口安吾『明日は天気になれ』より)

 

坂口安吾のプロフィール

坂口 安吾(さかぐち あんご、1906年(明治39年)10月20日 - 1955年(昭和30年)2月17日)は、日本の小説家、評論家、随筆家。本名は坂口 炳五(さかぐち へいご)。昭和の戦前・戦後にかけて活躍した近現代日本文学を代表する作家の一人である。新潟県新潟市出身。東洋大学印度哲学倫理学科卒業。アテネ・フランセでフランス語習得。純文学のみならず、歴史小説推理小説も執筆し、文芸や時代風俗から古代歴史まで広範に材を採る随筆など、多彩な活動をした。

坂口安吾 - Wikipedia

 

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