文豪語録

明治から昭和くらいまでの文豪たちの名言や名文、格言、迷言、珍言を載せていきます。

女子衰えたり - 坂口安吾『明日は天気になれ』

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女子衰えたり(1) 

 どういう風向きか知らないが、近ごろ法律なぞという堅ゾウ〔堅蔵=かたぶつ〕が女性に甘くなった
 フランスでは浮気の大臣を射殺した奥さんが無罪になったが、日本でもバラバラ事件が意外に刑が軽かったり、情夫の奥さんをチョイと注射で殺した女医がやっぱり十五年ぐらいの刑で、野郎ではとてもこうマケてもらえないようなことが多々起っている。
 御婦人に甘いのは結構なことで、私も別にケチをつける気はないのだが、殺されてバラバラにされた亭主の方は大迷惑で、テメエが悪いから殺されてバラバラにされたんだなぞと太鼓判を押された上に、まさかユーレイになって法廷へ申開きに現われるわけにもいかないから泣き寝入りとは踏まれたりけられたり、つらい話である。
 しかし、思うに、裁判という世界一番の堅ゾウすらも女に甘いのは、これは女がまだ至らないからである。女の子が男なみのことをやっているのは、情夫を殺したり、メカケを殺したり、亭主をバラバラにしたり、というような人殺しだけで、ほかのことではまだ一向にパッとしない。
 政治などでも、衰えたりとはいえ、まだ女代議士の先生が何人か健在でいらせられるはずであるが、活躍しているのは、もっぱら男の狸ばかりで、女の狐がいくらかでも天下をギョッとさせたようなことは一度もないじゃないか。
 たまにギョッとさせたことはあっても、酔っぱらッて抱きついて口説かれたとか口説かれないとかのバクロ演説では話にならない。女の子が酔っぱらッてズロースをかなぐりすてるようなことをすれば、天下の野郎どもがギョッとするのは当たり前のことで、人殺しと同じことだ。智恵のある芸じゃない。……

 

坂口安吾『明日は天気になれ』より)

 

「女子衰えたり(2)」の記事

坂口安吾のプロフィール

坂口 安吾(さかぐち あんご、1906年(明治39年)10月20日 - 1955年(昭和30年)2月17日)は、日本の小説家、評論家、随筆家。本名は坂口 炳五(さかぐち へいご)。昭和の戦前・戦後にかけて活躍した近現代日本文学を代表する作家の一人である。新潟県新潟市出身。東洋大学印度哲学倫理学科卒業。アテネ・フランセでフランス語習得。純文学のみならず、歴史小説推理小説も執筆し、文芸や時代風俗から古代歴史まで広範に材を採る随筆など、多彩な活動をした。

坂口安吾 - Wikipedia

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