男女同権いらい、近来とみに女の子がカスんでしまったのは、どういうわけであろうか - 坂口安吾『明日は天気になれ』
女子衰えたり(2)
……男女同権いらい、近来とみに女の子がカスんでしまったのは、どういうわけであろうか。
野郎どもが狸だかイタチだかネズミだかわからないようなチョロチョロした小者ばかりになって、かりにも獅子とか虎とかワニとかウワバミ〔蟒蛇=大蛇〕のような大者がいなくなってしまった。
こういう時こそ女狐なぞが豆狸やイタチの襟首をつかまえてダッキのお千かお万ぐらいの真価を発揮してくれそうなものだとひそかに期待したところが、そうはいかない。
私が思うには、獅子とか虎とかウワバミというものはまだしも女に敵しがたいところがあるが、豆狸やネズミやイタチは女狐ていどを手玉にとるには至芸に達していて、女は全然カスまざるをえなかったのではないかと思う。してみると、泉山三六先生なぞは、やっぱりウワバミていどの大物かも知れないのである。
目下日本の女の子は人殺しとストリップにおいてもっぱら天分を発揮しているにすぎないが、亭主をバラバラにしたり、ズロースをかなぐりすてて天下の野郎どもを驚倒させるのは、女の子なら誰でもできる下の下のことと心得るべきである。
昔はケイセイといって、吉原のパンパンすらも城を傾ける怪力を発揮したものであるが、ちかごろの女は裁判という山ダシの堅ゾウをチョロマカす程度にすぎない。ああ女子衰えたり、衰えたり。
(坂口安吾『明日は天気になれ』より)
「女子衰えたり(1)」の記事
坂口安吾のプロフィール
坂口 安吾(さかぐち あんご、1906年(明治39年)10月20日 - 1955年(昭和30年)2月17日)は、日本の小説家、評論家、随筆家。本名は坂口 炳五(さかぐち へいご)。昭和の戦前・戦後にかけて活躍した近現代日本文学を代表する作家の一人である。新潟県新潟市出身。東洋大学印度哲学倫理学科卒業。アテネ・フランセでフランス語習得。純文学のみならず、歴史小説や推理小説も執筆し、文芸や時代風俗から古代歴史まで広範に材を採る随筆など、多彩な活動をした。
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