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文豪語録

明治から昭和くらいまでの文豪たちの名言や名文、格言、迷言、珍言を載せていきます。

よーし。これはイタチだ。こいつを育ててミンクの毛皮をとってやるぞ - 坂口安吾『明日は天気になれ』

ささやかな愉しみ

 わが家の北西に小さなコンクリート製の池がある。池の向うのクサムラと縁の下の間を、時々フッと影ともカゲロウともつかないものが行ったりもどったりするのである。
 はじめは池の水面が起す物理現象の類いかと思っていたが、日暮れちかくなると、特にそれが起って、どうも姿はシカととらえがたいけれども動物のようである。私がこれを女房に語ると、
「私はとっくに気づいていたわ。姿はわからないけど、動物に相違ないわ」
 というので、そういうケッタイな物が縁の下に土着していては気になるから、土地の古老(というほどの年でもないが)にきいてみた。


「ウーム、そうか。すると、君のウチの天井でネズミを追ッかける奴はいないか」
「ネズミはしょっちゅう追ッかけられてるな。追いつめられてチューチュー泣いてる奴もいる」
「それだ。君のウチにネコはいねえだろう。それはイタチだ。縁の下の先生はイタチだぜ。オレの子供のころはオレンチにもイタチがいたが、洪水の時にイタチがいなくなって、一丈あまりの青大将が住みつきやがったよ。ここのウチぐらいの古い建物にイタチだけなら恵まれてるぜ」


 それからまもなく、そのクサムラで生れたての小さな動物を女中がつかまえた。
「これイタチの子ですか」
「待て、待て。動物辞典と百科辞典をもってこい。エエト、これがイタチの大人か。大人と子供は似ていないが、イモムシと蝶々にくらべれば大そうよく似ているといわねばならぬ。よーし。これはイタチだ。こいつを育ててミンクの毛皮をとってやるぞ
 縁日で廿日ネズミのカゴを買ってきて入れておいたら、入れ物に似てしまったのか、ネズミになってしまった。


 また初冬の小春日和の一日、日和で季節をカンちがいしたらしくスイッチョン〔「スイッチョン」と鳴く言われているウオマイという虫〕がノコノコまいこんだから、これを生け捕りにしてカステラの空箱に入れて、
「昔、松永弾正というロベスピエールフーシェのアイノコのような悪党ボスが人のできないことをやってみせるといって松虫を飼って三年生かしたそうだ。このスイッチョンは本人自身が来年も生きる目算で身を隠していた奴に相違ないから、うまく飼うと三年はおろか、十年二十年と生きのびてヒゲが白髪となり人語を解するに至るぞ。これを見世物にだして、老後を安穏に暮すから、者ども、ユダンなく育てろ」


 そこで人間が寝しずまって部屋がつめたくなってからは、拙者の部屋へつれてきて、暑からず、また寒からぬように、いろいろと身の廻りのメンドウを見てやって、それをハリアイに毎晩いそいそと徹夜の仕事をした。
 ところが女というものは大事を託するに足らん。拙者の不在中、スイッチョンを箱からだして、愛玩して、脚を一本落してしまった。スイッチョンは無事越年し大寒を元気よく迎えながら、これがもとで死んでしまった。悲しいかな。

 

坂口安吾『明日は天気になれ』より)

 

坂口安吾のプロフィール

坂口 安吾(さかぐち あんご、1906年(明治39年)10月20日 - 1955年(昭和30年)2月17日)は、日本の小説家、評論家、随筆家。本名は坂口 炳五(さかぐち へいご)。昭和の戦前・戦後にかけて活躍した近現代日本文学を代表する作家の一人である。新潟県新潟市出身。東洋大学印度哲学倫理学科卒業。アテネ・フランセでフランス語習得。純文学のみならず、歴史小説推理小説も執筆し、文芸や時代風俗から古代歴史まで広範に材を採る随筆など、多彩な活動をした。

坂口安吾 - Wikipedia

 

イタチと子猫がじゃれ合っている動画

イタチと子猫がじゃれ合っていて可愛らしい。

ただ、このイタチの行動は自分より大きな獲物を捕食する際にとる行動だ、というコメントが動画に寄せられている。

実際どうかわからないけど、イタチは意外と凶暴で害獣らしいから実際に捕食しようとしていたのかもしれない。

見た目は可愛いんだけど、結構行動はえげつないイタチ。

ちなみに、ミンクはイタチ科のカワウソに似た姿をした動物。

日本には生息していないから毛皮ではなく動物としてはあまり馴染みがないけど、ミンクも肉食動物なので、もし日本にいたら害獣扱いされていそう。

 

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